「ごにじゅう、ごさんじゅうご……」と、九九は,リズムよく唱えることで暗記していきます。たけちゃんとの授業で,その唱え方で印象的なやりとりがありました。
1. 「やりたい」からこそ、あえて厳しいハードルを
授業の冒頭、たけちゃんは少し疲れ気味で、式の読み方が曖昧になっていました。何度かはっきり読むようにアドバイスしましたが,今日は気が乗らないのか,改善しようとしません。ここで「ちゃんと読みなさい」と叱るのは簡単ですが、それでは学びの主導権が大人に移ってしまいます。「やらされるもの」になってしまうのです。
私はあえて、彼に「やめる」という選択肢を提示しました。
私: 「ふにゃふにゃ言ってたら間違って覚えてしまうよ。まだ一年生なのに,二年生の九九の勉強したいんでしょ? 九九を覚えるためには、この式がテンポよく読めることが大事なの。どうする?九九の勉強したいならきちんと読まなきゃだめだよ。 それともここの勉強ももうやめちゃう? どっちでもいいよ。自分で決めてごらん。」
この「どっちでもいいよ」という突き放しは、冷たさではありません。「君が学びの主役だよ」という私なりの信頼です。たけちゃんは自分で「やる」と決め、その瞬間から見違えるほどハッキリと口を開けて式を唱え始めました。
2. 「お皿」と「おまんじゅう」でイメージ化する
一方,九九は暗記すれば良いという学習ではありません。九九は暗記の前に,かけ算の本質を理解する必要があります。それなくしては,九九は唱えられるけれど,かけ算の意味が分からず,中学年,高学年の算数でつまずきます。そのために,授業では、九九を単に数字で覚えるのではなく「絵」と「式」をつなげることを大切にします。それが本質的な理解につながるからです。たとえば 5 × 2 = 10 という式。
- 「5」:1つのお皿に乗っているおまんじゅうの数
- 「2」:お皿が何枚あるか
- 「10」:全部で何個あるか
私: 「この10は、何の数?」
たけちゃん:全部のおまんじゅうの数」
私:「そうだね。全部の数って絵のどこか、指でなぞってみて。」
ただの数字の羅列が、頭の中で「お皿とおまんじゅう」に変換される。この「具体と抽象の往復」こそが、本質的な理解につながります。
【教育相談:保護者の皆様へ】「選択肢」という最高のギフト
授業後、お母様と「子供の選択」について深く語り合いました。
Q. 子供が「めんどくさい」という感情に負けそうなとき、どう声をかければ?
A. 「頭の納得」と「心の納得」を繋ぐ機会を与えてください。
たけちゃんが式の読み方を渋ったとき、彼は「読まなきゃいけない(頭)」と分かっていても「面倒(心)」が勝っていました。そこで私は、「掛け算をやりたいなら読む」「読みたくないなら掛け算はやめる」という究極の選択をさせました。
私: 「結局、読みたくない感情とかけ算をやりたい感情を自分で天秤にかけて、『やりたい。じゃあ読むしかないな』って本人が考えて行動が変容したんです。無理やりやらされたのではなく、自分で決めた。この経験が、人の成長のきっかけになります。」
親が良かれと思って「こっちの方がいいわよ」と誘導しすぎると、子供は失敗したときに「お母さんが言ったからだ」と人のせいにするようになります。
小さいうちから、
- 「9時に始める? 10時に始める?」
- 「この難しい問題をやる? それとも今日は復習にする?」
と、「自分で選んだのだから、最後までやろう」と思える覚悟を育んであげてください。その積み重ねが、将来、自分の人生を自分の足で歩む「自律した大人」への第一歩となると私は考えています。

